2013年3月アーカイブ

 翻訳書や研究書などには外国語表記のあるものが多い。英語以外のものはコンピュータの世界ではローカル言語とされるので、それらの言語の特殊文字は通常は互換性がない。ワープロなどでは環境設定をすればなんとか表記できるものもあるが、そうしたデータをテキストファイル化するととたんに消えてしまう。この場合、すべて消えてしまうわけでもないことが多く、それに近い文字に置き換えられるのがふつうだ。フランス語のアクサン(アクセント記号)やドイツ語のウムラウトはふつうのアルファベットにアクセント記号が付されているのが外れてしまうだけである。
 ともあれ、頻度の高い特殊文字だけでもテキスト化して、印刷所で変換してもらうようにするしかない。これらの表記はワープロ上で検索して置換するのが手っ取り早い。
 わたしが一般的に使用している特殊文字のテキスト指定は以下のようなものである。これ以外のものは必要に応じて設定する。
(フランス語)
 アクサンテギュー(文字の上部に右上から左下にかけて斜めの線が入るもの)→e+'/a+'/o+'/y+'/E+'など(l'、s'などの子音との組合せのときは通常のアポストロフィとして使用)
 アクサングラーヴ(文字の上部に左上から右下にかけて斜めの線が入るもの)→a`/e`
 アクサンシルコンフレックス(文字の上部に「^」があるもの)→a^/i^/u^/e^/o^
 cセディーユ(Cまたはcの下部にヒゲが付く)→C&/c&
 リガチャー(合字)→o+e/a+e/O+E/A+E
 ギュメ(小さい引用符)→【<<】......【>>】で指定。
(ドイツ語)
 ウムラウト(文字の上部にトレマが付く)→a``/i``/u``/e``/o``/A``/O``など
 エスツェット(大文字のBを崩したもの)→B&
 ドイツ語特有の引用符(始まりが下付右よりの「"」、終りが上付き左よりの「"」)→【"】......【"】で指定。
(その他)
 ギリシャ語、ラテン語長音文字→e ̄/i ̄など
 上付き文字:<SUP>......</SUP>ではさむ。
 下付き文字:<SUB>......</SUB>ではさむ。
 半角ダブルクウォート「"」および半角シングルクウォート「'」→開き用に「"」と「'」に、閉じ用に「/"」と「/'」で指定。なお、ここでこれらはすべて半角なので、欧文と同じように開きの「"」および「'」の前には半角スペースを、閉じの「"」および「'」の後ろにも半角スペースを入れる必要がある。ただし前後に全角の句読点、カッコ類がある場合はこの限りでない。必要なアキはすでにこれらの文字に含まれているからである。

 日本語にはルビ(ふりがな)のほかに傍点(圏点)という独特の表記がある。通常は「、」が文字それぞれの横に振られるのだが、これもルビの一種とみなしてよい。Wordでは当然のように親文字ごと消失するのは前項で述べたとおりなので、ここでも前項と同じようにWord上でデータ処理するか、印刷してからテキスト保存したうえで再入力するしかない。テキストファイルでのタグ指定としては、わたしは
 _¨傍点を付ける文字列¨_
というタグを使っている。
 この傍点にも古い表記では「、」の代わりに小さい白丸、黒丸、二重丸、三角印などを付けたものがある。こういう場合には傍点タグのヴァリエーションとして、たとえば
 _¨●傍点を付ける文字列●¨_
などといったタグ指定をすればいいだろう。
 また傍点の代わりにまれに傍線などという場合もある。これなどは
 <傍線>傍線を引く文字列</傍線>
でいいだろう。言うまでもないが、これらはHTMLタグの原則を応用したものであり、< >に挟むことによって開始点と終始点(半角スラッシュを付ける)を表わしているのである。
 さらには、ゴチック指定もあり、これなどはいわゆるGタグすなわち、
 <G>ゴチックにする文字列</G>
というタグ指定でいい。

 世の中にはワープロソフトが入力ソフトの究極のツールだと思いこんでいるひとが多い。テキストエディタなどは存在も知らないか、知っていてもワープロより制限の多い、低級なツールだと思っているひとがほとんどではないか。たしかにWindowsに付属している「メモ帳」などをテキストエディタだと思っていれば、たいしたソフトではないと勘違いすることもありうるだろう。またテキストエディタはネット上でダウンロードして使えるシェアウェアまたはフリーウェアが一般的なので、市販ソフトに比べて安価(または無料)なので質もそれだけ落ちるとシロウトは考えがちである。
 ところがどっこい、いわゆる高機能エディタと呼ばれる多くのテキストエディタは、ワープロのような印刷機能や修飾機能に必要以上に力を入れているツールよりもテキスト入力とテキスト編集に特化したプロ用のツールなのであり、ワープロなどではろくに装備もされていない、テキスト処理に必要な「(タグ付き)正規表現」に完全に対応できるものが多いのである。これが使えないと、編集処理などには使い物にならない。ワープロがせいぜい中間発表レベルの印刷用ソフトと言われるゆえんなのである。
 ここではなぜかデファクト・スタンダードと思われているMicrosoft Wordのもつ大きな欠陥についてとくに注意しておこう。そのうちのひとつにルビの問題がある。そもそもルビ処理というのはワープロソフトそれぞれのローカルな機能であり、アプリケーションの外ではまったく通用しないルールにもとづいている。端的に言えば、Wordでできたデータをテキストファイル化しようとすると、ルビの文字はおろか親文字ごと消失してしまうというとんでもない不出来なソフトなのだ。無理もない、ルビなどという概念を知らないアメリカ人が作っているソフトだからであろうか。たとえば、Word上で「パソコンは英語という言語帝国主義【インペリアリズム】の支配する世界であって、日本語のような限定された【ローカルな】言語は二次的な言語と見なされる」という文章があるとしよう(【】内はルビ)。これをWordからテキストファイル化すると、「パソコンは英語という言語の支配する世界であって、日本語のような言語は二次的な言語と見なされる」となってしまって帝国主義【インペリアリズム】、限定された【ローカルな】というニュアンスが全部とんでしまう。もっとひどい例は「ランボーは『見者【ヴォワイヤン】』である」とか、同じくランボーの「絶対的に現代的【モデルヌ】でなければならない」といった有名なフレーズは「ランボーは『』である」「絶対的にでなければならない」というふうになんのことだかわからなくなってしまう。
 そこでどう対応するか。この場合には、テキスト保存するまえに、Word上でファイルの画面修正をおこなうか、Wordファイルを印刷しておいて、テキスト保存したデータにルビ文字を再入力するしかない。この作業は自動化するわけにはいかないので、ここは我慢してもらうしかないのである。
 ルビ指定は印刷所との約束でどうやってもいいが、印刷所の編集機で自動処理できるようにするためにはタグ付けが必要である。
 わたしの指定方式は、_^親文字【ルビ文字】^_というのが基本である。なお、親文字とルビ文字は原則的に1対2であるが、この比率ですべてのルビが振られているわけではない。親文字に対してルビ文字が長い場合(外国語にルビを振るような場合によくある。たとえば、英語:イングリッシュ、など)もあれば、逆に親文字に対してルビ文字が短い場合(たとえば、場合:ケース、など)、さらに言えば、日本語のふりがなが親文字と微妙にずれてしまう場合などもあり、ルビ問題はたんにWordの不備の問題だけでない、日本語の技術処理上の大きな問題である。
 くわしくはこの問題を論じた『出版のためのテキスト実践技法/総集篇』「II-6 ルビのふりかたを正確に指定する」を参照していただきたいが、要は、ルビ付き文字をいかに合理的かつきれいに見せるか、という問題なのである。日本語においては重要な課題なので、的確な対処が望まれる。

このアーカイブについて

このページには、2013年3月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2013年2月です。

次のアーカイブは2013年4月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。