17 日販の「インセンティヴ-ペナルティ」方式の危険

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 最近の取次の書店への取組みの仕方をみていると、市場の冷え込みと不況を反映してか、無駄なコストを極力抑制して効率販売をこれまで以上に上げていこうとする姿勢が顕著である。その最たるものが日販が採用している「インセンティヴ-ペナルティ」というマネジメント理論を取り入れた方式で、要するに一定以上の成績を上げた書店には報償を、それ以下の成績の書店にはペナルティを課すというかたちで、料率に二面的な差配をつけて書店をコントロールするという考えである。
 日販はカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と共同出資で2006年に立ち上げたMPD(Multi Package Distribution)に仕事の中枢を移行する方向で取次専業から徐々に離脱する指向性をもっていると見られるが、そうしたなかで取引先の収益力の強化を名目にさきの「インセンティヴ-ペナルティ」というマネジメントの方法論をその取引にあたっての原理に据えることによって出版不況に対応しようとしている。具体的には書店の返品率を35%をボーダーに設定することによって、それ以下に抑えた書店にはインセンティヴを、それ以上の結果が出ている書店にはペナルティを課すというものらしい。
 しかしそれによって書店は厳しい商品管理と商品仕入れを強いられている。売れる商品しか仕入れることができず、常備やフェアといった企画に対応することができにくくなり、まともな商品構成を実現できなくなりつつあるのである。
 なぜなら、ここでいう返品率とは、取次からみた総送品にたいする総返品の割合を指すので、理論上は100%返品されるはずの常備寄託や、売れ残りの多くなるフェア商品は返品率を高めるばかりになるので、返品率を下げることを至上目的とせざるをえない立場に追い込まれた書店は、こうした形態の入荷には否定的にならざるをえないからである。
 出版社の常備寄託にたいして日販系書店からの申込みがこのところ激減しているのはそうした背景があるからであって、このままでは書店の棚構成が形骸化するのは目に見えている。売れるものだけを並べようとしても、そもそも売れるものだけで書店の棚はカバーしきれるものではない。また常備寄託品に代表されるような(回転効率はかならずしもいいとは言えないかもしれない)基本商品を棚に置くことによって新刊や一部の売行き良好書が生きてくるのであって、そうした売れるものだけを並べている書店には読者は用がなくなれば寄りつかなくなってしまう。すでにそうした現象は深刻な事態を迎えているのであって、書店の荒廃をいっそう推し進めることになっていないか。売行きが目立って伸びにくい専門書、人文書の多くはそうした書店から排除される一方になってしまう。
 取次の自衛策としか思えないこうした「インセンティヴ-ペナルティ」方式は、あまりに短絡的であって、書店を締めつけることによって出版社にもマイナスの影響を与えるばかりか、それらをつうじて取次自体にもはねかえってくることになるのは明らかではないか。心配なのは、脱取次をめざしていると懸念される日販ばかりか、トーハンなどにもそうした方向性が見られはじめていると言われていることである。
 ここは出版界の再生のために大所高所からの判断を期待したい。出版界は三位一体などと言われるが、自己本位になっては業界の存立さえ危ういことになってしまう。それになによりも忘れてはならないのは読者の存在である。このまま読者の書店離れが進めば、もはや取り返しがつかなくなるのではなかろうか。(2012/2/21)

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