18 出版は活字の力を通じて未来をつくっていく(「中国新聞」より転載)

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 出版界は1996年をピークとして前年比割れをつづけて、いまや最盛時の2兆6000億円超の売上げが2兆円を割るようになってきており、このままでは出版業自体の存続が危ぶまれるような事態を迎えている。その原因としてインターネット、携帯電話等の情報機器の発展や、最近は電子書籍化の動きなどが取りざたされており、書店の衰退、図書館予算の削減などにより本がますます売れない状況が加速されているとも言われている。
 そこへもってきて昨年の東日本大震災とそれにつづく原発事故は日本の景気を一気に押し下げて低迷に拍車をかけてしまった。「がんばろう」のかけ声ばかりでは事態はいっこうに打開されないのが実情で、出版界もまたその例外ではない。
 昨年11月に未來社は創立60年を迎えた。それにあわせて社史『ある軌跡──未來社60年の記録』を刊行するとともに、わたしが未來社の月刊PR誌「未来」に十五年にわたって書きつづけてきた出版コラム[未来の窓]176回分のうち一部を削除し、テーマ別に再編集して『出版文化再生――あらためて本の力を考える』と題して同時に刊行した。A5判500ページになる大冊になったが、出版界および出版事業にたいするわたしの積年の思いを展開したものとして、いわば未來社の裏の公式文書としても、さいわい新聞等で紹介され、業界的にも話題になっている。
 今回、この本を機縁として未來社としても以前からかかわりの深い「中国新聞」に寄稿を求められたのはたいへんうれしいことである。というのは、小社からは中国新聞社編で『証言は消えない』ほかの広島の記録三部作(毎日出版文化賞受賞)、『中国山地』上下、『新中国山地』などドキュメンタリーものを刊行させていただいており、わたし自身も2004年に『中国山地 明日へのシナリオ』の編集を手がけている。また中国地方とも関係の深い宮本常一さんの『著作集』その他も継続刊行中である。
 さて出版はほんとうに力を取り戻せるのか。わたしが『出版文化再生』と書名でわざわざ「文化」を強調したのも、いまこそ出版の原点に立ち返り、本という紙媒体のもつ力をまず出版界のわれわれ自身が再認識し、そこから真に文化的に価値のある本づくりを勇気をもって実現していくことを通じて、新たな日本社会を再生していく基盤をつくろうと呼びかけることにあった。
 さいわいなことに本を書こうと念願している力量のある著者はすこしも減少しておらず、それを支える優秀な編集者も健在である。本は読者が手に取るところから始まり、その粋を凝らしたレイアウトや活字の美しさなどを通じて、読書のおもしろさや知識の深さをほんとうに味わえる器なのである。新しい文化はつねにここから始まるのである。
 出版界はこれまでのように大量生産―大量流通―大量販売という方式による安易な量的指向ではなく、出版物の文化性を強く志向する質的充実へと転換していかなければならないだろう。情報の一過性に頼る出版物や雑誌はすでにその傾向が顕著に現われているように、いっそうの退潮を強いられざるをえないだろう。
 出版界のこれまでの成長を支えてきたこれらの出版物が他のメディアに取って代わられることをいまやおそれてはならない。業界的な成長はもはや期待できないとしても、出版は本の力、活字の力を取り戻すことによって未来をつくっていくことはまだまだ可能なのである。

 *この原稿は2月初旬に書いて送ったが、新聞社の意向で表記その他の変更がなされ、「中国新聞」2012年2月19日号に掲載されたものである。ここに掲載するのはその元になった原稿である。(2012/2/22)

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未来の窓 1997-2011

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