22 朝鮮民族の〈恨〉を直視する

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 ひさしぶりに熱い芝居を見た。きのう(3月4日、日曜日)の午後、誘われて武蔵関の"ブレヒトの芝居小屋"という劇場(といっても工場跡みたいな場所)へ出かけて行き、韓国のベテラン劇作家・鄭福根(チョン・ボックン)作(坂手洋二演出)「荷(チム)」の東京演劇アンサンブル公演の楽を見た。200席ほどのスペースが両側に分かれて舞台を見下ろすかたちの劇場で構造上の制約があるからだろうが、こういう舞台もなかなか新鮮だった。
 演目は第二次大戦直後の青森県大湊市を舞台に、大戦中に強制的に日本に連れてこられた朝鮮人をそこから船に乗せて朝鮮に送還するという設定で、そこには軍事工場などで強制的に働かされた者や従軍慰安婦として性奴隷とされた女性たちがひしめいていて、それぞれのドラマを抱えて乗船するが、その船は戦時中の悪事の露見を恐れた旧日本海軍の陰謀で大量に積み込まれた爆弾とともに途中で沈没させられることになっていた。七〇〇〇人余りを乗せて一九四五年八月二十四日、舞鶴沖で爆沈させられた浮島丸事件をテーマとする重い芝居である。そこに朝鮮の由緒ある旧家から連行され従軍慰安婦にさせられた女性と、その女性の存在を一族の恥とする朝鮮の家族の古風な考え方とが交錯し、そこに一種のセカンド・レイプ状況が生まれる。女性は爆沈した船からたまたま救われるのだが、大湊に戻って自死にも似た死を選んでしまう。その女性が死ぬまでかかえていた荷物が二〇年後の世界で日韓のあいだを何度も往復するという設定のドラマなのである。
 ドラマの筋は省略するが、ここで暴かれたのは、日本帝国主義の軍隊のあまりの凶暴さ、残忍さであり、その被害にあった朝鮮民族の苦しみであり、それが戦後においても容易に解決できないさまざまな軋轢をもつことの現実である。親兄弟や恋人、息子や娘を強制的に奪われ殺され辱めをうけた朝鮮民族の「恨(ハン)」の深さがこれ以上ない痛切さでことばと叫び、演技を通じて訴える。
 こういう重い主題であるが、満杯の観客には若い女性も目につき、彼女らがこういう現実から目をそらすことなく、今後の生き方のなかで歴史認識をきちんともちつづけてくれることを期待したい。出版社はこういう作品こそをもっともっと世に送り出すべきではないかと考えさせられた。(2012/3/5)

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