27 藤森建二さんの回想記に思う

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 未來社での先輩でありわが営業の師匠とも言える藤森建二さんが独立して洋泉社を創業したのが1984年12月、44歳のときであった。昨年暮れのある会で会い、ひさしぶりに二人で二次会をしたさいに、近く回想記を出すので読んでみてくれ、と言われていたのが、そのしばらくあとに送られてきた『洋泉社私記──27年の軌跡』である。わたしが未來社に入って8年ぐらいで独立してからすでに27年になるのかと思うと、いまさらながら時間の経過の早さに感慨深いものがある。しかもすでに2年まえに古希を迎える年に引退しているのだからなおさらである。
 もっともこの間いろいろなところで遭遇したりいっしょに呑む会に参加したりしているので顔を合わせることがなかったわけではない。しかしこの回想記を読むと、なんといろいろなひとと会ったり交渉したりしているのかがわかる。もともと営業畑で広告関係もかかわりがあったから、創業者ということもあって、未來社時代の人脈もいろいろ活用しながら馬車馬(失礼!)のごとく業界内を動きまわっていたことがわかる。その結果が年間百数十点に及ぶ新刊を出すような出版社に成長をとげさせたのだから、親の仕事を引き継いだだけのわたしなどに比べるまでもなく、この厳しい時代の出版界にあってたいした成功者だと言っても過言ではないだろう。所轄税務署から優良企業としてお褒めのことばをいただくぐらいなのだから。
 この回想記について言えば、記述があまりにもメモ風なので、どういうひとと会い、なにをしていたかはわかるが、概略だけしかわからない。社員の出入りもいろいろあったからもっと思うところはあったはずだが、そういうところは淡々としているのがいかにも藤森さんらしい。
 出版傾向はわたしの意図するところとは相当ちがうので、べつにコメントをつけるつもりはないが、「あとがき」で「出版社の『目録』は、その社の暖簾と言われてきましたが、今日ではさほど重視されなくなってきています。......いつからか、書籍も一般の商品と変わらなくなりはてて......」という箇所があるが、やはり「それはちがうでしょう、藤森さん」というのがわたしの見方であることだけは言っておかなければならない。古くさいと言われようが、わたしはそういう一方の陣営に属している人間であって、いまだからこそ書籍の力を呼び戻さなければならないと思っているのである。それが『出版文化再生――あらためて本の力を考える』を刊行した理由であり、〈出版とは闘争である〉と考えるからである。(2012/3/28)

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未来の窓 1997-2011

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