52 なにごとにも始まりがあり、終りがある――東京国際ブックフェア2013出展をとりやめたワケ

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 きのう書いた「51 沖縄写真家シリーズ〈琉球烈像〉がついに完結」で書いたように、沖縄写真家シリーズ〈琉球烈像〉が完結し、同じ日に『田中浩集』全10巻の第1回配本『田中浩集第一巻 ホッブズI』が刊行された。終わるものもあれば、始まるものもあるということだ。
 先日27日に書物復権8社の会例会があり、未來社が来年の東京国際ブックフェア2013への出展をとりやめる件が最終的に確定した。2004年に書物復権8社の会として初めて共同出展をして以来、来年は10年目になるが、この出展とりやめの件はすでにことしの出展終了後から社内的には方向性を定めてきたもので、8月2日の書物復権8社の会臨時例会のさいに公表した。それにたいして他の7社は来年も出展する意向を明確にしたので、未來社だけが来年からは脱落することになった。他の7社には足並みを乱すことになっていろいろ迷惑をかけるが、こればかりは未來社としては継続できないということを認めてもらうことになった。
 出展しない理由を単純に言えば、他の7社に比べて人員的に4日間の動員はむずかしくなってきたことがひとつと、年間新刊点数が不足していることがあげられる。最近の東京国際ブックフェアでは既刊書よりも新刊書が売上げの大半を占めてしまうという現実があり、これは世の趨勢でもあるからいたしかたない面があり、その点で未來社の売上げはブース代ほかのコストにも全然見合わないからである。こうした傾向は以前からもあり、経営の立場から見たら、いまのブース代その他の直接費用をクリアするには本来は何倍かの売上げがなければ成り立たない。本のマージンは売上げ分の何分の一かでしかないからである。このことは各社も原理的に同じはずだが、そうした観点は見かけの賑やかさに見えなくなりがちだ。とはいえ、以前のように目録を受け取らない読者もますます多くなってきているし、コミュニケーションをもとうとする読者もどんどん減ってきて、将来につながっていくというより、本を割引で買うことが主目的の読者になってきているように思えてしまう。このことがわたしには不満で、すでに4年前に「このひとたちが『読者』なのか」という総括の文章を書いたこともある(『出版文化再生――あらためて本の力を考える』161ページ)。このあたりから、わたしの出展への意欲は徐々に損なわれてきていたと思う。
 しかし、ことしに関しては、これまではあえて触れないできたもっとも大きな決定的な理由が別にある。というのは、わたしがここ最近、力を入れてきた沖縄関連書、とりわけ沖縄写真家シリーズ〈琉球烈像〉がこういう場所では、手に取るひとの多いわりには購入するひとがきわめて少ないという現象がその理由である。ことしの4月に刊行された中平卓馬写真集『沖縄・奄美・吐カ喇1974-1978』は今回の超目玉のつもりで出品したのであったが、これもふくめてこの写真家シリーズはさすがにことしはかなり売れるだろうと期待せざるをえなかったのだが、まあ見事に惨敗したことになる。東京国際ブックフェアに集まる読者というのは、とりわけ書物復権8社の会のコーナーに集まる読者というのは、首都圏のかなり優良な読者層であるはずだけに、この期待はずれにはいまいちど落胆させられることになった。やはり首都圏のひとたちの〈沖縄問題〉への関心はこの程度のものだったのだという、あらためて考えてみれば、いまの日本(ヤマト)のひとたちが考えている〈沖縄問題〉へのレベルをもろに反映しているのであった。たしかに値段も(相対的に)高いし、大型判の写真集だということもあるかもしれないが、パラパラとめくっていくことは相当あっても、まずほとんどのひとがそのままパスするという光景は、わたしにはこの関心度を如実に表わしていると思われた。
 写真展の個展やなんらかのイベント会場など、〈沖縄問題〉に関心の高い読者が集まるような場所だとこういうことはないから、その落差を痛感せざるをえなかったのである。わたしは今後も〈沖縄問題〉に注力していくつもりなので、こうした光景が毎年くりかえされるのをもはや見るにはしのびない、それがわたしの気持ちを決定的にトーンダウンさせた理由なのである。わたしは、こう言ったからといって、東京国際ブックフェア自体も出版社が出展する判断自体も否定するつもりは毛頭ないので、いまは未來社の力量と方向性がこのフェアにはマッチしなくなったということを言いたいだけなのである。ほんとうは言わずもがなのことだろうし、こういうことを書くこと自体に反対するひともいるだろうが、いずれこういうことははっきりするべきだと思うので、あえて書いた次第である。(2012/9/30)

(この文章は「西谷の本音でトーク」で書いた同題の文章を推敲のうえ転載したものです。)

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