67 書物復権の会の問題点と新しい展開

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 小社も所属している「書物復権の会」も一九九七年に発足して以来、ことしで十七年目になる。いよいよこの六月から例年のように各書店でのフェアが開催されるが、ことしは春秋社が特別参加するかたちになって9社になり、従来の復刊活動においてもオプションフェアという新機軸をくわえてますます多彩になってきた。わたしとしても小誌での[未来の窓]連載を終わらせたこともあって、しばらくこの会の活動について触れる機会がなかったので、ここで会のかかえる近年の問題点と新しい展開についてすこし整理しておきたい。
 ことしの復刊書目は9社あわせて四〇点。これまでは各社五点を原則にしてきたが、ことしからは最低三点以上ということにした結果、特別参加の春秋社をふくめて三点の社が三社あった(みすず書房はセット本をふくめて六点、小社は従来通り五点)。復刊事業も適切なアイテムを揃えることが徐々にむずかしくなってきており、その一方でフェアを展開してくれる書店も諸事情ですこしずつ撤退を余儀なくされてきたせいか、初回出荷部数が漸減してきているのがここずっと続いてきている。そのためか復刊事業そのものがやや頭打ちになってきているのが現状なのである。
 とはいえ、復刊候補からもれたアイテムにかんしては、読者の注文さえあれば「オンデマンド」版による復刊が可能になった。この新しい復刊の試みはすでに書物復権運動と連動したかたちで三年ほどまえから始められ、すこしずつ成果を挙げるようになってきた。海外版権のあるものや特殊な著作権事情のあるものは実現していないが、こうした試みによって陽の目を見なくなりつつあった名著がなんとか復権できるようになったことはせめてもの幸いとしなければならないだろう。あわせて紀伊國屋NetLibraryへの出品をおこなうようにしたものもあり、ささやかながらも読者の要望に対応できるようになっている。
 さらに通常の復権フェアとあわせて既刊本を売るためのオプションフェアを準備したところ、予想を超える申込みがあった。特別なものではないが、ことしの復刊書の関連書、これまでの復刊書のベストアイテム、定番書、新刊・話題書、といった四つの切り口に各社それぞれ上位三点のアイテムをリストアップし、書店の希望にあわせて各社三点ずつ、上位二点ずつ、最上位の一点ずつ、という大中小三種類のフェアを選択して書物復権フェアと同時開催するというものである。当初、これまでより拡大ヴァージョンのフェアになるので、書店が受け容れられるか懸念されたが、意外なことに前向きに取り組んでくれようとする書店がかなりあることがわかった。心強いことである。
 それとは別にさまざまな切り口にもとづくテーマフェアのリストを一ダースほど用意して書店からの今後の要望に応えられるようにした。これはすでにこの三月から神保町の岩波ブックセンター信山社で始まっている書物復権の会連続フェア「大事に売っていきたい本」のために準備した六回分をふくむもので、各社三点三冊~五冊、合計二七点のミニフェアである。平台一台程度で展開できる小規模のものであり、信山社フェアを最初のステップとしてそれぞれの書店からのリクエストを期待している。ちなみに信山社でのフェアタイトルは三月「古典再読」、四月「現代史はここから始まる」、五月「思想と芸術の十字路」、六月「境界」、七月「書き手との新たな出会い」、八月「ベスト・オブ・人文書」となっている。なお、この連続フェアは柴田信会長からの依頼で、岩波書店一〇〇周年記念フェアと合同で開催されるもので、月に一度は関連イベントをすぐ上のフロアにある岩波セミナールームでおこなうという、地の利をいかしたなかなか贅沢なものである。関心をもたれた方はぜひ足を運んでみてほしい。
 もうひとつの大きな試みは、紀伊國屋書店福岡本店で五月におこなわれるブックハンティングをかねた「『本の力』~For Next Generation~次世代読者に向けて」ブックフェアである。各社五〇〇点プラス平積み一〇点という大がかりなブックフェアであるが、今回の特徴はそれにあわせて近隣の四大学が参加するブックハンティングである。各大学から派遣された担当者がスキャナーを手に欲しい本を現物を見ながら登録していくという方法で、あとで帯同した紀伊國屋書店外商部で各図書館の在庫照合をしたうえで発注されるという仕組みである。これはすでに昨年の東京国際ブックフェアで初めて導入した試みを福岡の地で実施しようとするもので、はたしてどういう結果を生むことになるのか、まったく予想がつかない。手間とコストに見合うのかどうか、はなはだ興味深いものがある。
 いずれにせよ、こうした新しい試みは書物復権の会のなかでも若い世代が企画し実現しようとしてきたものが多く、会のメンバーのなかで若手が成長してきている側面を反映している。古株としては事務局長として会運営を支えてきたみすず書房の持谷寿夫社長とわたしだけになってきており、こうした若い世代による会活動の新展開は今後の会を考えるうえで非常に頼もしいものである。展望の厳しい出版界ではあるが、とりわけ専門書の販売はますます困難が予想されるなかで、新刊・既刊を問わず、あらゆる手立てをこうじて売る方途を探っていかなければならないのであって、読者がそうした本と出会える場所を設定していく試みは貴重である。
 さて、そうした動きのなかで小社はことしの東京国際ブックフェアへの出展は辞退させてもらうことにした。くわしくは「出版文化再生ブログ」(http://poiesis1990.cocolog-nifty.com/shuppan_bunka_saisei/)の「52 なにごとにも始まりがあり、終りがある――東京国際ブックフェア2013出展をとりやめたワケ」(二〇一二年九月三十日)でくわしく書いたのでここでは再論しない。そこでの新企画説明会もブックハンティングにも参加することはない。残念ではあるが、トータルにみての判断なのでいたしかたないと思っている。(2013/5/11)

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