II-2 「[新版]日本の民話」シリーズ刊行にあたって

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 どこを向いても暗い話題ばかりがあふれている出版業界であるのはいまに始まったことではないが、書店の廃業が止まらない。かつては地方の老舗書店が世代交替もままならず、古い体質を時代にあわせて更新していくことができずに次々と店をたたんでいったが、最近ではその後に出店したナショナルチェーンの支店もたちゆかず閉店するところが多くなっている。いわゆるスクラップ・アンド・ビルドだが、どうもそれだけではすまない情勢だ。ナショナルチェーンの本家にも火がついたからである。
 すでにいろいろ報道されているように、池袋リブロが近く閉店するらしい。人文書に強い大型書店として池袋リブロは一九八〇年代にはわれわれのような専門書出版社にとってはたいへん強力なサポーターだった。デパートの書籍売り場からリブロとして立ち上げるときには小社の常備を全点買い切りで扱ってくれたことは驚くべきことだった。その後も優れたスタッフを擁して順調だったのはいつごろまでだったのだろうか。
 年々売上げが落ちていくこの業界の現状では、ナショナルチェーンといえどもこれまで通りの業態を維持していくのはむずかしい。最新の情報によれば、雑誌などはピークの一九九〇年代後半に比べて部数で半減、週刊誌にいたっては三分の一にまで減っている。書籍でも三割以上の売上げ減になっている。これでは工夫や品揃え努力によって多少は挽回する可能性はあるとしても、大型店になるとそれもかなりむずかしい。仙台地区の大型書店が軒並み閉店に追い込まれているという情報も衝撃的だ。これには東日本大震災からつづくダメージの累積もあるのだろう。
 まもなく刊行されるはずのわたしの新著『出版とは闘争である』(論創社)のなかに収録した「出版業界が半減期に入るのは時間の問題」というコラムは二〇一二年九月にこの[出版文化再生]ブログに書いたものだが、予想よりも早く現実のほうが到来したことになる。有力書店という受け皿が減少していくなかで出版社もますます苦しくなっていくのは目に見えている。
 こういうなかで、以前にお知らせしたように、この四月から「[新版]日本の民話」シリーズ全七十九巻が毎月十五日、オリジナル版の巻数順に三冊ずつ定期配本される予定である。すでに取次や大型書店、図書館流通センターなどには内容見本とともに販売交渉を進めているところで、感触はとてもいい。なかにはかつて「日本の民話」をおおいに売ってくれた経験をもつ書店人や取次人もいて、こんな不景気の時代だからなおさら期待してくれているそうで、たいへんありがたいことである。かつてはそれぞれの該当地区の老舗書店が「ご当地もの」ということで積極販売してくれた結果、大きな成果を生んでくれたものだが、いまはどれぐらい力を発揮してくれるだろうか。取次の地方担当とも連絡をとって適切な配本と販促を期待している。刊行時期にあわせて当地の地方紙にも広告を出すつもりで、準備を進めているところだ。
 また、今回は小社としても初めての試みであるリフロー型の電子書籍化も進めており、紀伊國屋書店の「KINOPPY」で先行販売的に扱ってもらうほか、アマゾンなどでの販売も検討中である。小社としてはいわゆるフィックス型の電子書籍(版面をPDFによってウェブ上で閲覧できるようにしたもの)では紀伊國屋NetLibraryや丸善eBook Libraryでの販売実績があるが、こうしたリフロー型電子書籍は一般読者を対象にしたものであり、まったく経験がないため、どういう反応があるのか、どういう可能性が開けてくるのか予測がつかない。「[新版]日本の民話」シリーズは内容的にも、挿絵が豊富にある点から言っても、スマートフォン端末などでも十分に読める一般性がある。専門書ではなかなかそうはいかないが、このシリーズにかぎっては期待してもいいのではないかと思っている。
 こうした再刊をすることになったために、すでにフィックス型を納品している紀伊國屋NetLibraryと丸善eBook Libraryには面倒をかけてしまっている。懸案事項であったすでに購入してもらっている大学図書館とどういう対応をするかも検討ずみである。新版もこれまで同様、あらたにフィックス版を納品する予定でいるので、順次入れ替えをお願いしているしだいである。内容はまったく変わらないが、活字も新しく読みやすくなり、価格も下がるので、これまで以上に購入がしやすくなるはずである。
 これにともなってこれまで欠巻が多くてオンデマンド版での購入を余儀なくされていた読者にとっても、「[新版]日本の民話」シリーズは、サイズがA5判ハードカバーから四六判ソフトカバーとハンディになり、活字も古い五号活字から新しい9ポ活字になって読みやすいうえに、価格も二〇〇〇円または二二〇〇円(税別)と手頃になった。刊行月日と価格もすでに決定しているので、読書計画にも取り入れていただけるとさいわいである。全巻予約の場合には未來社ホームページ(http://www.miraisha.co.jp/topics/2015/01/post-117.html)で期限付き予約特価の案内も出しているので、ぜひご覧いただきたい。
 ともかく、以前にも書いたことだが、日本人のこころのふるさととも言うべき民話の豊かな民衆的伝承の世界を、これからの日本を背負っていく若いひとたちを中心にぜひ読んで語りついでいってもらいたい。子ども同士でも簡単に人を殺してしまう昨今の殺伐とした人間関係を脱却し、民話が語りかける豊かな愛と共感の世界の発見へと向かってほしいと願うばかりである。そして本を読むことのすばらしい経験をきっかけに、今後も読書する習慣を身につけてほしい。それが本シリーズ再刊の最大の希望なのかもしれない。(2015/3/1)

 *この文章は「未来」2015年春号に連載「出版文化再生20」としても掲載の予定です。

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