II-13 本を読むというすばらしい経験

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 この四月から「[新版]日本の民話」シリーズを毎月十五日に三巻ずつ定期配本している。すでに第一巻の瀬川拓男・松谷みよ子編『信濃の民話』を皮切りに第一五巻『飛騨の民話』(江馬三枝子編)まで、元版(一九五七~八〇年)の巻数順に刊行してきた。
[新版]シリーズでは、これまでのサイズをハンディにし、活字も読みやすく、価格も求めやすくした。旧版で好評だった挿絵もすべて再現したので、このシリーズの民俗的香りはそっくり保存されている。
 ある程度以上の年配の方ならご記憶にあろうかと思われるが、一九七五年にはじまったTBSテレビ放映のアニメ「まんが日本昔ばなし」が市原悦子さんと常田富士男さんの名語りで毎週ゴールデンアワーに放映され、空前の「民話」ブームを巻き起こしたことがある。その原案として活用されたのが旧版「日本の民話」であった。
 誰でも知っている桃太郎や浦島太郎の伝説などが日本各地に少しずつ形を変えて語りつがれていることがわかるのもこのシリーズの特長である。劇作家木下順二が民話劇に取り組み、その代表作『夕鶴』は各地に伝わる「鶴女房」伝説から生まれている。
 戦後すぐに復活した生活綴り方運動などとともに、松谷みよ子を中心とする「日本民話の会」を母胎とした民話発掘の文化運動は広く各地の民話を採集、編集、記録してきた。これらの成果はこの「日本の民話」シリーズに結集された。このシリーズは民衆文化を対象とする民俗学などによっても高く評価されてきた。
 いま日本の政治は安倍晋三というウルトラ右翼ファシスト政治家によって、空前の危機状態にさらされている。すでに教育現場は、長年にわたる自民党の教育政策によって荒廃させられ、文字を満足に読めず、本を読まない世代がどんどん生まれてきている。大学では国策に沿わない文科系学問などはどんどん切り捨てられ、ゆがんだ歴史教育によって間違った歴史認識が押しつけられている。
 この[新版]シリーズの再刊は、こうした政治や教育の荒廃に抗して、日本人のこころのふるさととも言うべき民話の豊かな民衆的伝承の世界を再構築し、これからの日本を背負っていく若いひとたちを中心にぜひ読んで語りついでいってもらいたい、という願いをこめている。
 本を読むことはおのずから自分が生きることの意味を考え、世の中の矛盾や問題にたいして批判的に対処する精神を涵養するものである。本を読むことのすばらしい経験をきっかけに、今後も読書する習慣を身につけ豊かな人間になってほしい。それが本シリーズ再刊の最大の希望なのである。(2015/9/6~9/12)

*この文章は「しんぶん赤旗」からの依頼によって書かれたものである。

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