偏執的編集論1:偏執的編集論への序論

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F君 お聞きするところによると、なにか新しいアイデアがあるそうですが、何を書き始めるつもりなんですか。
偏執的編集者(以下、略して「偏集者」) いやあね、さきに「季刊 未来」二〇一七年秋号に「[出版文化再生【30】]ある編集者の一日」というのを書いて、さりげなく業界発言から足を洗って、自分が書きたいものを書くことに専念したいと思っていたんだが、どうもなにか書いていないと、どこかからだの具合でも悪いのかと心配してくださる読者がいてくれたりするので、この雑誌をやっていくかぎりはなにか役に立つことのひとつもしておかなくちゃいけないのかな、と思い直したんだけど、さて、いまさらなにか出版業界に物申すのもむなしい気がするし、それよりもなによりもこの業界にたいして発言したいこともなくなってしまったわけで、いろいろ考えていたら、やっぱりわたしの編集にたいする技法とか考え方をマニュアル化して後生のために残しておくぐらいしかやることが残っていないな、と思ったわけだ。F君はウチの担当になってまだ一年も経っていないけど、わたしが昨年十一月から隔月刊行で始めた加藤尚武著作集(全十五巻、既刊四冊)のほかにすでに何冊もわたしの編集本を手がけてくれているからもうわかっているだろうけど、わたしの編集技法がどれほど効率のいいものか、よく知っているだろう。
F君 ええ、そりゃもう。おかげで忙しくさせてもらっていますが、びっくりもしています。ほかにこんなに早く刊行するところなんてありませんから。
偏集者 もちろん、それにはわたしのパソコンを使う[出版のためのテキスト実践技法]がフルに活かされているからできるんだけど、そうは言っても、編集の基本は本を作るにあたってどういうコンセプトでどういう方向づけで進行するかということと、いかにそれを最初の読者として読み解くかというところにあるので、誰かさんがかつてわたしを批判したつもりでいたように、パソコンを使って本などできるものか、というようないまさら時代遅れが証明されたようなトンチンカンはさすがに消滅したようだけれど、いまだに校正を三校もとっているような前時代的編集が世の中ではつづけられていると聞いては、わたしのような経営者としては黙っていられないことになってしまうんだよ。知り合いの社長さんたちにももっと認識してもらっていいんじゃないかと思っているのも、編集者たちにこうした方法論があることを理解してもらうことで実際に経営的にもおおいに利用してもらいたいからなんだけど。これを「労働強化」だと言ったひともかつていたんだけど、言語道断だよね。まるで理解していない。F君ならわかるでしょ。
F君 わかります、わかりますとも。未來社の本は加藤尚武著作集のような厄介な内容のもので四五〇ページ以上になるような本がすべて初校責了なんですからね。初校の赤字も一〇ページに一、二箇所ぐらいですから、文句なしに初校責了になります。印刷営業としてこれほど回転のいい商品はありがたいですね。
偏集者 出版社としてもだらだら仕事をされるより資金回収が早くて都合はいいわけよ。まあ、作った本がもっと売れてくれればなおさらいいんだけど。それに、他社の編集者がどういうふうに仕事をしていようと、わたしがしゃしゃり出る必要はないけど、そのうちわたしもこういう仕事ができなくなるまえに、出版業界に遺しておけるわたしの独善的(笑)編集技法をマニュアル化しておこうという気持ちになったわけだ。社内的にもまだ十分に消化されていないところもあって、社員教育にもなるわけだ。まあ、出版界への遺書みたいなものだと思ってもらっていいよ。
F君 ちょっと、それはどうですか。(苦笑)
偏集者 ともかくこの原稿は「季刊 未来」に掲載しようと思っているが、原稿はどんどん書いてしまうかもしれないし、区切りごとに[出版文化再生]ブログにアップしていくことにしようかなとも思っているんだ。。どうせ「季刊 未来」の読者はあんまりブログなんか読まないだろうし、そもそも「季刊 未来」もほとんどわたしがひとりで編集していて、書き手もぎりぎりまでページが確定できないひともいるんで、台割(注 8ページ単位を基本とするページ配列のこと)の問題で余ったページにこの原稿を掲載することにしようと思っているんで、いつも余分に書いておくつもりなんだ。
F君 そうすると最大8ページ以内、書くということですか。
偏集者 しょうがないよね。不安定だけど台割で苦労することがなくなるからね。
F君 でもこんな調子でダラダラやるんですか。
偏集者 よくもわるくもそういうことになるね。

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