偏執的編集論3:目次は本の設計図である

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 さて、著者から受け取った出版用原稿データをどう処理していくのか、基本的な方法と手順を記していこう。前提として原稿がワードでできたファイルを想定する。なぜなら昨今の出版用原稿入稿データは不幸なことに99パーセントと言っていいほどワードでできているからである。そしてワードでできたファイルをテキストファイルに変換することがまず最初におこなうべき仕事である。印刷所でゲラに出力するのはすべてテキストファイルが基本だからだ。
 このローカルで不出来なワープロソフト、ワードにもすこしだけ取り柄がある。原稿のタイプにもよるが、専門書などではドイツ語やフランス語の原語が使われたり、傍点やルビ機能が使われることがかなり多い。そうしたときに、いきなりテキスト化してしまうと、こうしたワード特有なローカル機能はすべて消失してしまう。とくにルビなどは親文字ごと消えてしまうのでタチが悪い。ドイツ語のウムラウト、エスツェット、フランス語のアクサンなどはすべて「?」に変換されてしまう。マイクロソフトのLINUX系無償対応ソフトであるOpen Officeもこれには対応できないし、それ以外でも閉じカッコ(」)が消えて改行されてしまうなど欠点も多い。結局、出版社側ではこのテキスト変換のためだけにでもMicrosoft Officeを買わされるハメになる。
 とにかくそれではどうするか。これは後述する手法とかかわるので、いまは簡単に記しておかざるをえないが、ウムラウト、アクサンなどはテキスト変換するまえにワード上で所定の文字データに検索・置換してしまうしかない。ワードでも単純な検索・置換はできるので、たとえばウムラウト付き文字(大文字小文字のAEIOU, aeiou)はそれぞれのうしろに「``」を付けて「a``」のように置換してしまう。(これはのちに印刷所のDTPで本来の形に戻すように指定すればいい。)傍点とルビはお手上げなので、ワード原稿を印刷しておいて確認しながらテキストデータにそれぞれの指定を入力していくしかない。
 さて、こうした最小限の処理をすませてしまったらワード上で[ファイル]メニューから[名前を付けて保存]を選択し、保存先を確定(通常は元原稿と同じフォルダでいい)したうえで、呼び出される保存画面で[ファイル名」欄にしかるべき名前を入力し、[ファイルの種類]で「書式なし」を選択して「保存」を押せばいい。すぐ警告画面でごちゃごちゃ言ってくるが、無視して「OK」を押せばテキストファイルに変換される。これだけで仕事のための準備は完了である。ほかのワープロソフト(たとえば「一太郎」)などでも基本的に同じ。もともとテキストファイルで入稿してきたものは、言うまでもなくそんな必要はない。
 これでとりあえず専門編集者として出発点に立ったわけである。

 そこでまず最初にすべきことは何か。編集者の仕事は、まずこの本がどういう構成でできているかを把握することである。どういうことかと言うと、この本が何部構成なのか、何章でできているのか、中見出し、小見出し、節といったようなランク付けされた構成をとっているのか、注はあるのか(原注と訳注がありうる)、図版や写真があるのか、といった全体をまず掌握することである。こうしたことは編集者なら誰でもあたりまえに考えることだから、ことさらに言うほどのこともない。しかし、問題はそこから始まるのである。それは「目次」作りをきちんとすることである。目次とは英語でcontentsと言うが、これはもともとは「内容」を意味する。つまり本の内容をメニューとして差し出したものが「目次」なのである。そしてこの目次には以下の内容をどのレヴェルまで表示するかという編集者にとって最初に意識しなければならない問題がある。そしてもちろんのことだが、章節などの本体と目次に違いがあってはならない。しょっちゅうあることだが、著者が最初に目次の原稿を作成したあと、当該の箇所で考えが変わって章節タイトルの変更がなされたさいに、目次の部分が修正されないままのことがある。編集者はそういうことまで配慮しなければならない。著者が最後にタイトルを付けたり、目次立てを考えるのとは逆に、編集者はできたものから逆算して目次をきちんと把握する必要があるのは、書いてみないとどうなるかわからない著者とは立場が逆だからである。それがプロとしての編集者意識である。本の目次は編集者にとって最初に全体の見取り図を与えるための設計図なのである。
 それでは具体的にどうするか。まずテキストデータを本文データとして一本化しておく必要がある。章ごとにファイルが分かれている場合などが多いが、それぞれのデータをテキスト化したあとで結合させておく。(たとえば秀丸エディタでは「カーソル位置への読み込み」コマンドでファイル連結させる。)注は別ファイルにしたほうがいいだろう。
 つぎに本の最初にあるべき目次扉(省略する場合もある)、目次、本扉、中扉などを指定する。ほかに凡例や装幀者名のページなどもある。これを順番に設定していく。ページの切れ目には【改ページ】などと入力しておく(印刷ユーティリティによっては「/*改頁*/」という文字列の入力で印刷時に改ページが実現できる。)
 ところで、ここでは目次を問題にしているわけだから、本文との対応は厳密になされなければならない。わたしのやりかたを言えば、章などの大見出しは<H1>......</H1>、中見出しは<H2>......</H2>、小見出しや節などさらに下位の項目があれば<H3>......</H3>、<G>......</G>などを設定する。これはHTMLタグ(注 Hyper Text Markup Language インターネットのブラウザなどの指定タグ)を応用したもので、そういう方面の知識のあるひとにはなんら異和感はないはずである。もちろん、最初のほうは開始タグ、スラッシュ「/」付きのほうは終止タグであり、該当する文字列をこの開始と終止のタグではさむのである。これは目次を確認しながら最初におこなうべきである。そして同時にその前後のアキ行も改行を入れることで設定する。たとえば大見出し(<H1>......</H1>)をページの右寄せ、文頭とのあいだを5行アキとする場合、大見出しのタグ付けのあとに改行を5回入力する。中見出しの場合(<H2>......</H2>)なら、たとえばその前に2行アキ、うしろに1行アキを入れるとすれば、その数だけの改行を入力する。さらに小見出し、節の場合(<H3>......</H3>、<G>......</G>)にはその前に1行分の改行を入れておく。こうしておけば、データをスクロールするさいにこうしたアキが目立つので、そうした見出しの位置などが見つけやすい。ちなみに秀丸エディタでは「マーク」というコマンドがあるのでそういう場所へのジャンプが容易である。また高機能テキストエディタでは改行コードやタブコードなどのコントロールコードとか全角半角スペースの画面表示が可能であるし、印刷ユーティリティによってはこれらの表示分を印字することも可能である。こうした表示機能がないと、文中に誤ってスペースが入力されていたり、よくあることだが、行頭に半角スペースが二つ入っていたりすることにも気づかない。編集者はこうした細部のチェックができなければならないので、そのためのツールを持ち合わせる必要がある。間違ってもワードではこうした編集は不可能なのである。
 なお、今後のテキスト編集についての議論は秀丸エディタをベースに説明するつもりである。興味のあるかたはわたしの『[編集者・執筆者のための]秀丸エディタ超活用術』(翔泳社、二〇〇五年)を参照してほしい。基本的なテクニックとテキスト編集にかんする高度な技法について詳述している。刊行は古いがまったく古びていない。テキスト編集の基本はそんなに変わらないからである。

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