偏執的編集論5:編集タグのいろいろ1――ルビ(ふりがな)と傍点(圏点)

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(間奏曲)

偏集者 というわけで、編集タグについてのとりあえずの基本的説明を終えたので、ちょっとF君を呼び出してみよう。
F君 なにかご用でしょうか。
偏集者 いやね、ちょっとひと段落したもんだから、このへんの記述ではどうかと思ってね。ここまでの編集タグというのは全体の構成とか見た目にかかわるところなんで、多少はデザイン的要素がある。これからはもっと具体的な字句単位の細かい指定に入らざるをえないのだが、読者(そういうものがいればだが)はどこまでついてきてくれるだろうかね。
F君 まあ、ついてくるひとはどこまでもついてきてくれるんじゃないですか。
偏集者 どこか投げやりな言い方だが、真実はついているようだね。じゃあ、また再開するか。


 世の中にはワープロソフトが入力ソフトの究極のツールだと思いこんでいるひとが多い。テキストエディタなどは存在も知らないか、知っていてもワープロより制限の多い、低級なツールだと思っているひとがほとんどではないか。たしかにWindowsに付属している「メモ帳」などをテキストエディタだと思っていれば、たいしたソフトではないと勘違いすることもありうるだろう。またテキストエディタはネット上でダウンロードして使えるシェアウェアまたはフリーウェアが一般的なので、市販ソフトに比べて安価(または無料)なので質もそれだけ落ちるとシロウトは考えがちである。
 ところがどっこい、いわゆる高機能エディタと呼ばれる多くのテキストエディタは、ワープロのような印刷機能や修飾機能に必要以上に力を入れているツールよりもテキスト入力とテキスト編集に特化したプロ用のツールなのであり、ワープロなどではろくに装備もされていない、テキスト処理(検索、置換など)に必要な「(タグ付き)正規表現」に完全に対応できるものが多いのである。これが使えないと、編集処理には使い物にならない。ワープロがせいぜい中間発表レベルの印刷用ソフトと言われるゆえんなのである。
 ここではなぜかデファクト・スタンダードと思われているMicrosoft Wordのもつ大きな欠陥についてとくに注意しておこう。そのうちのひとつにルビ(ふりがな)の問題がある。そもそもルビ処理というのはワープロソフトそれぞれのローカルな機能であり、そのアプリケーションの外ではまったく通用しないルールにもとづいている。端的に言えば、Wordでできたデータをテキストファイル化しようとすると、ルビの文字はおろか親文字ごと消失してしまうというとんでもない不出来なソフトなのだ。無理もない、ルビなどという概念を知らないアメリカ人が作っているソフトだからであろうか。たとえば、Word上で「パソコンは英語という言語帝国主義【インペリアリズム】の支配する世界であって、日本語のような限定された【ローカルな】言語は二次的な言語と見なされる」という文章があるとしよう(【】内はここではルビ)。これをWordからテキストファイル化すると、「パソコンは英語という言語の支配する世界であって、日本語のような言語は二次的な言語と見なされる」となってしまって帝国主義【インペリアリズム】、限定された【ローカルな】というニュアンスが全部とんでしまう。これなら――意味はまったくちがうが――まだ意味は通るが、もっとひどい例は「ランボーは『見者【ヴォワイヤン】』である」とか、同じくランボーの「絶対的に現代的【モデルヌ】でなければならない」といった有名なフレーズは「ランボーは『』である」「絶対的にでなければならない」というふうに形骸だけ残ってなんのことだかわからなくなってしまう。
 そこでどう対応するか。この場合には、テキスト保存するまえに、Word上でファイルの画面修正をおこなうか、Wordファイルを印刷しておいて、テキスト保存したデータにルビ文字を再入力するしかない。この作業は自動化するわけにはいかないので、ここは我慢してもらうしかないのである。
 ルビ指定は印刷所との約束でどうやってもいいが、印刷所の編集機で自動処理できるようにするためにはタグ付けが必要である。
 わたしの指定方式は、_^親文字【ルビ文字】^_というのが基本である。なお、親文字とルビ文字は原則的に1対2であるが、この比率ですべてのルビが振られているわけではもちろんない。親文字にたいしてルビ文字が長い場合(外国語をルビに振るような場合によくある。たとえば、英語【イングリッシュ】、など)もあれば、逆に親文字にたいしてルビ文字が短い場合(たとえば、場合【ケース】、など)、さらに言えば、日本語のふりがなが親文字と微妙にずれてしまう場合などもあり、ルビ問題はたんにWordの不備の問題だけでない、日本語の技術処理上の大きな問題である。
 くわしくはこの問題を具体例を挙げてかなりマニアックに論じた『出版のためのテキスト実践技法/総集篇』「II-6 ルビのふりかたを正確に指定する」を参照していただきたいが、要は、短いほうの親文字あるいは小文字にスペース(全角、半角、四分)を前後または/および中に挿入して、ルビ付き文字をいかに合理的かつきれいに見せるか、という問題なのである。日本語においては重要な課題なので、的確な対処が望まれる。

 日本語にはルビ(ふりがな)のほかに傍点(圏点)という独特な表記がある。通常はひと文字分の点が文字それぞれの横に振られるのだが、これもルビの一種とみなしてよい。Wordでは当然のように親文字ごと消失するのは前述したとおりなので、ここでも同じようにWord上でデータ処理するか、印刷してからテキスト保存したうえで再入力するしかない。テキストファイルでのタグ指定としては、わたしは
 _¨傍点を付ける文字列¨_
というタグを使っている。
 この傍点にも古い表記では点の代わりに小さい白丸、黒丸、二重丸、三角印などを付けたものがある。こういう場合には傍点タグのヴァリエーションとして、たとえば
 _¨●傍点を付ける文字列●¨_
などといったタグ指定をすればいいだろう。
 また傍点の代わりにまれに傍線などという場合もある。これなどは
 <傍線>傍線を引く文字列</傍線>
でいいだろう。言うまでもないが、これらはHTMLタグの原則を応用したものであり、< ></ >に挟むことによって開始点と終始点を表わしているのである。

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